鉄心の製造方法
鉄心は概ね「電磁鋼板コイル」→「打ち抜き」→「積層」(ヨーク・鉄心脚の作成)→「組立」の順で作られます。
積層は、5枚の鋼板を交互に10mmずつずらし、客先指定の厚さまで積み重ねて、ヨークと鉄心脚を作ります。
その後の組立は、積層した鉄心脚に巻線を入れ、ヨークを差し込みます。
最近は渦電流損を低減するために薄手材が使われるので、このように所定の厚さまで積層して鉄心を作る作業は、非常に手間がかかります。
そこで、最近では、この「打ち抜き」→「積層」(ヨーク・鉄心脚の作成)→「組立」を自動で行う装置が開発されているようです。
変圧器と鉄心
変圧器本体の基本構造は以下の4つからなります。
①鉄心
磁束の通路。方向性電磁鋼板を積層したもの。
②巻線
電流の通路。銅線またはアルミ線でできています。
③絶縁物
鉄心と巻線を絶縁します。
④締付装置
相互位置や機械的強度を保つための装置。
変圧器には鉄心と巻線の組合せによって、内鉄形と外鉄形があります。
内鉄形:各相単一の磁気回路の鉄心を有し、巻線がその周囲に巻かれたものです。
外鉄形:巻線の周りを二つ以上の磁気回路が取り囲んだものです。
また、電磁鋼板の積層方法として、積鉄心と巻鉄心とがあります。
内鉄型積鉄心は、巻線がはめ込まれてる鉄心脚と鉄心脚を固定するヨーク(継鉄)からできています。
外鉄型積鉄心は、内鉄型積鉄心を複数個並べて横にした形状です。
この鉄心は、巻線を形成しておき、積層した脚部を巻線窓内に挿入して巻線の周囲に継鉄を積み重ねて成形し、上下をおさえつけます。
最後に巻鉄心は、電磁鋼板を打ち抜き、巻線周囲に渦巻状に巻いた鉄心です。
巻鉄心の作り方によって、以下の3つに分かれます。
・ノーカットコア:鉄心に直接巻線を巻いていくもの
・ラップコア、カットコア:形成された巻線にコアを挿入し、バンドで締め付けるもの
方向性電磁鋼板の製造方法
方向性電磁鋼板は磁化容易方向が圧延方向に平行なGoss方位{110}<100>の結晶粒を持っています。この方位を得るために、①回復→②一次再結晶→③二次再結晶の段階を経ます。
①回復
加工によって歪エネルギーが蓄積された状態の金属に熱を加えると、歪エネルギーを解放して加工前の状態に移行しようとする回復の段階があります。
②一次再結晶
さらに熱を加えると歪の少ない新しい結晶粒が発生し、比較的歪が多く残留している他の結晶粒を蚕食しながら成長する再結晶の段階があります。
③二次再結晶
再結晶粒が全面を覆った後、加熱を続けると結晶粒の成長が起き、さらに高温まで加熱し続けると、再結晶組織に含まれる特定の方位を持つ結晶が急激に成長して全体を占めることがあります。これを二次再結晶といいます。
二次再結晶を起こさせるには、連続焼鈍後にインヒビターと呼ばれる微細な析出物が生じることが最も重要です。
インヒビターとして有名なものに、窒化アルミニウム・硫化マンガン等があります。
また、冷延圧下率も重要です。
圧下率が低すぎると、Goss方位からのずれが大きい結晶粒が現れ、結果として磁束密度が下がります。
逆に圧下率が高すぎるとかえって二次再結晶しません。
成分によって、最適な条件は変わるので、注意が必要です。
電磁鋼板の製法概要
電磁鋼板は製造工程は大まかにいうと、転炉製鋼を経て連続鋳造した後、種々の熱処理と加工とを組み合わせて行い、表面処理をします。出荷する際は、スリッターにて、客先指定の幅、重さに仕上げます。
方向性電磁鋼板及び無方向性電磁鋼板の製造工程は下記の通りです。
1.方向性電磁鋼板
転炉製鋼→連続鋳造→熱延→熱延板焼鈍→酸洗→冷延→連続焼鈍→バッチ焼鈍→表面処理
2.無方向性電磁鋼板
転炉製鋼→連続鋳造→熱延→熱延板焼鈍→酸洗→冷延→連続焼鈍→表面処理
両者の大きな違いは、「バッチ焼鈍」があるかないかです。
方向性電磁鋼板は、このバッチ焼鈍があることで、二次再結晶により特定方位をもった結晶だけを大きく成長させて、方向性を持たせています。
電磁鋼板の用途の分類
電磁鋼板はモーターやトランスの鉄心材料として、電気と磁気の存在するところに広く使われています。これを大きく分類すると、回転機と静止器があります。
<回転機>
モーターや発電機のように電気を回転力にまたは回転力を電気エネルギーに変えるための回転機械用鉄心として用いられます。(主に無方向性電磁鋼板)
<静止器>
トランスのようにそれ自身では仕事をしない機器の鉄心に用いられます。(主に方向性電磁鋼板)
電磁鋼板は一般普通鋼材よりも高価なため、安くてよいものが要求されています。
無方向性電磁鋼板を例に取ると、需要家側で打抜加工後、焼鈍して始めて所要特性の得られるセミプロセス材(※1)は、加工性や特性がフルプロセス材(※2)より良く、安価であるため、よく使われています。
(※1)無方向性電磁鋼板の製品のうち、製鉄所から出荷されるときは、まだ途中工程まで処理されてるに過ぎず、需要家において、打ち抜き加工後に焼鈍することによって、はじめて所望の特性が出るものをセミプロセス材といいます。
(※2)無方向性電磁鋼板の製品のうち、製鉄所から出荷されるときに既に所望の特性が出るように処理されたものをフルプロセス材と言います。
層間抵抗値(絶縁性)
電磁鋼板は磁性を良くする(低渦電流損)ために板厚を薄くします。しかし、電気機器に使われるときは、何枚も積み重ねて鉄心とするので、各板間(層間)の電気抵抗がないと、厚いブロックと同じことになってしまいます。
そこで、電磁鋼板には層間抵抗を与えるために、絶縁被膜が施されています。
絶縁被膜には、無機質、半有機質、接着コーティング等があり、用途によって使い分けられています。
層間抵抗値は電磁鋼板1枚の単位面積当たりの被膜の抵抗ということで、「Ω・cm2/枚」等が用いられています。
また、被膜が破壊される電圧をもって絶縁特性を表す耐電圧法というのもあります。
<参考>
※被膜に求められる特性
・絶縁抵抗 →主に無機コーティング
・打抜性 →主に半有機コーティング
・その他、溶接性、耐熱性、密着性、剪断性、耐錆性等
鉄損とその要因
電気機器の鉄心(電磁鋼板)の中で消費されるエネルギー損失を鉄損といいます。
鉄損は電磁鋼板1kgに対し、何Wattの損失があるか(W/kg)で表わされます。
鉄損のJIS規格には、使用される交流の周波数50Hz、磁束密度1.7T(テスラ)に対する鉄損をW17/50(W/kg)で表わされると記載があります。
鉄損はエネルギー損失なので、低いほうが良いです。
鉄損には渦電流損とヒステリシス損があります。
鉄損を下げる要因としては、以下のものがあります。
①固有抵抗
Si、Al、P、Mn等を添加すると、固有抵抗が高くなり、鉄損(渦電流損)が低減します。
②板厚
板厚が薄いと、鉄損(渦電流損)が下がります。
③磁区幅
レーザーで磁区幅を狭くすると、鉄損(渦電流損)が下がります。
④磁束密度
磁束密度が低いほうが、鉄損は低い(ヒステリシス損)です。
その他、ヒステリシス損は周波数に比例して大きくなります。